Act.22
俺には何もなかった。
なんにもなかった。
あったのは空っぽの心。
それも、沙羅が生まれてきてくれて変わった。
彼女がすべて。
俺の人生のすべて。
沙羅がいなかったら、俺は生きる価値を失う。
そして…また生きる価値を失う。
もう俺にできることは…ないのか?
暗い場所で、俺は一人ずっと考えてる。
ここがどこかはわからない。
ただ暗くて、音もなくそういう嫌な場所。
そうか…沙羅がいない世界は丁度こんな感じなのかもしない。
そう思ったとき、焦燥感に襲われる。
とても不安でたまらなくなって、
「さらぁぁぁー。どこだ!!!!返事をしろっ!」
暗闇に向って叫んでいた。
疲れるまで叫んだ。
でも、返事は返ってこない。
やっぱり、ここは沙羅が居ない世界。
俺にとって無価値な世界。
沙羅がいないなら…神様はいっそう俺の存在を消し去ってくれないだろうか。
そう思って、真っ暗なその場に体を投げ出して、全部をあきらめてしまった。
「夢なら覚めてくれ…こんな悪夢は…」
どうやら寝ていたらしい。
目を覚ますと、真っ暗だったはずの世界が鮮やかに色づいていた。
そこは懐かしみを帯びていて、俺に安心感を与える。
場所は、自宅の庭。
しかも、ずっと昔、子供のころ使ってあったブランコやら自転車やらが置いてある。
「おにいちゃん、はやく。はやく!!!」
いきなり声がして驚くと、ブランコにさっきまでいなかった沙羅がいた。
そして、姿が幼いことに驚いた。
たぶん5歳ぐらいだと思う。
「おにいちゃん??どうかしたの?」
「え??あ、いや」
「へんなカオしてるよ?」
そして、やっと気付いた。
リビングのガラスに映った自分も幼かった。
これは…夢だろう。
だって、おかしいだろう。
25になる俺が…子供だなんて。
「おにいちゃんってば、ねぇ??だいじょうぶ?」
「え、ああ。平気だよ。ブランコ押してあげるから、ちゃんと座ってて」
「うん!!」
沙羅は、うれしそうに笑って、きゃっきゃ騒いでる。
沙羅が幸せそうなんだから、夢だってなんだっていいじゃないか。
そう思って、俺も笑った。
しばらして、沙羅の背中を押す感覚がなくなっていた。
見ると、沙羅がいなくなってた。
空もさっきまで晴れていたのに、急に黒く曇り始める。
胸騒ぎがして、「沙羅っ!!!どこだ!!!」
また叫ぶ。
返事はない。
いや、リビングから誰か出てきた。
「拓兄ぃ、何よ?庭でなにしてるわけ?私、急ぐの、用事がないなら、もう行くから」
出てきた沙羅はいつもの17歳の沙羅だった。
「あれ?やっぱさっきの夢だった?今の俺は何歳に見える?」
「は?頭イカレたの?うーん、拓兄ぃ何歳だっけ、20歳すぎだよね」
「なんだそのアバウトな…兄の歳を忘れるって。冗談だろ?」
沙羅はふっと笑って、
「だって、拓兄ぃの歳なんてどうでもいいし。私、急いでるの、じゃあね」
そういってリビングに戻っていく。
「どうでもいいって…。おい!!お前いつもと違うぞ。いつもはもっとツッコんでくるだろ!!」
「はあ?私はいつもこんなんでしょ」
沙羅はふり返って、笑ってる。
だけど、その笑いは冷たくて、嘲ってる。
「なんだ、その笑いは!!!俺をバカにしてるのか!!!」
「別に、馬鹿になんかしない。だってどうでもいいもん」
『どうでもいい』という言葉が突き刺さった。
「沙羅、俺なんかしたか?俺…お前の為になんでもするから、そんなこと言うな」
「私の為?なにもしなくていいよ、なんでもできるから」
「え、料理は?お前できなだろう?」
「料理?出来るよ。家事も勉強もできるの。拓兄ぃは何もしなくていい」
「何もって…俺は今までお前を…」
「拓兄ぃなんていらない」
怖くて、沙羅を見ることができなかった。
世界が揺らいだ。
立っていることさえできなくて、地面に這いつくばった。
「俺…いらないのか?」
「うん、いらない」
「そうか…」
また目が覚めると、真っ暗な空間。
最初と同じ状況だった。
ここからはさっきの繰り返しだった。
焦燥感にから叫び、そして、幼い自分たちに会う。
その幸せな時間を留めようと、あがくが、また時は流れる。
そして、さっきと同様に沙羅に拒絶される。
その一連の流れを繰り返した。
それを俺は止めれない。
そして五度ぐらいだろうか、それぐらい繰り返したところで、頭はイカレていた。
「お前、もうあきらめちまえば?」
声が聞こえた。
男だと思う。
けれど、なんで声が聞こえるとか誰だとか考えてる余裕はなかった。
「あははは。疲れきってる」
さっきの声とは違う、高い声だった。
たぶん女だろうと思う。
「お前、さっさと意識飛ばしちまえ。もう、限界だろう?」
「そうよ、無駄なあがきはやめてよ。あなたはこっから出れないんだから」
女はクスクスと笑った。
「ここはどこなんだ?さっきからの繰り返し…これは夢なのか?」
「夢?さぁ、どうだろうな。試してみるか?」
男がそう言うと、急に苦しくなった。
「ほれ、早くしないと死ぬぞ」
見ると、自分自身で首を絞めている。
苦しいということは…現実なのか?
「あなたがそう思うなら、現実なのかもね?」
女が言うと、俺の手は絞めるのを止めた。
ゴホゴホと咳き込んで、意識を飛ばしそうになる。
が…、苦しさは、すっと抜けた。
まるで、さっきのことが夢や幻のようだ。
現実か夢か…それとも両方なのか…俺はそういうよくわからない場所にいるらしい。
「兄さんや、アンタ結構精神力強いのな。まだまだいけそうだな、もう3週ぐらいするか?」
「さっきと同じじゃつまんないから、そうだね…こんなのはどう」
女の声はふふっと笑うと続ける。
「アンタが妹を殺す。妹は恨みながら死ぬの。最高でしょ?」
「おいおい、お前考えることエグイな。まぁ、おもしろいけどよぉー」
「でしょ。アンタは妹に殺されたって、きっと本望でしょ?だからね、妹をアンタが殺すの」
「やめてくれ、やめてくれ。夢でも幻でもいやだ」
俺は姿の見えない奴等ににわめいた。
奴等が言った、恐ろしいことが本当に嫌だった。
「あははは。本当に嫌がってる。ねえ、そう言われると、やってみたくなるのよ」
「だよなぁ。でもさ、もう遅いんだよ。お前がその怖いことを考えた瞬間から、始まるんだよ」
男の言う通りだった。
俺の手には赤いものがついたナイフ。
周りに流れるのは赤いもの。
うずくまってるのは、大切な妹。
目を開けたまま、動かない妹。
恐ろしい光景。
この後がもっと最悪だった。
沙羅の声が頭に響いたんだ。
『痛い』
『やめてよ』
『怖い』
『どうして』
『なんで殺すの?』
『どうして笑ってるの?』
笑ってる…って、俺は笑ってない。
見ようとも思ってないのにナイフに映った自分の顔が見える。
にっこりと笑って、とても恐ろしい。
なんなんだ。
これじゃあ、俺は沙羅を殺したかったみたいじゃないか。
「殺したかったんだろ?殺したら、お前のものだ。手に入ったんじゃねぇか」
男がささやいた。
「ふふっ。よかったわね。これでアンタの妹はどこにも行かない。だって行けないんだもの」
「それは…俺が殺したから?」
俺は
俺は
沙羅を殺したかった?
こんな怖いことを考えた俺だから、さっきの夢のようなもので拒絶されたんじゃないか。
俺は危ない奴なんだ。
沙羅にとって、一番危ない奴じゃないか?
「そう思うなら、自殺する?」
「ああ。そうするよ」
俺は、手にあったナイフで首を刺した。
痛みは一切なかった。
首を触っても、どうもなってない。
ナイフを良く見ると、オモチャになってた。
「残念。死なせませーん」
「死んだら困るからな。取引してやる。お前にとっていい条件だ」
「今更、取引か…。俺はどうすることもどうせ、できないんだ。呑むしかないんだろ?」
「そういうことだ。わかってるじゃねぇか。最高の条件だ。お前は大人しくしてるだけ。見返りに、幸せだった小さい頃にずっといさせてやる」
「わかった。もう大人しくしてる」
俺は逃げた。
正体不明の奴等の言いなりだ。
何も出来ない無力さと情けなさが俺の中に残った。
けども、そんなのはきっと忘れるんだろう。
沙羅、ごめん。
きっともう帰れない。
でも、沙羅は大丈夫だよな。
もう、俺がいなくたって。
さようなら。
あとがき
今回はもうトーク形式をやめます。
本編暗いのにあのアホ会話はちょっと無理。
あえてトークで明るくするのもアリですが…今回はやめます。というかトークって長くなる
前回からまた結構経過しててすみません。
暗くて書くのがしんどかったんです、たぶん。
これになるまでにあーだこーだあったんですが、別にいらんわってなって。
試行錯誤。
いらんわってなった部分は、3行ぐらいでまとまって説明でるんじゃないですか。
たった3行ぐらいになるのか(涙)
気付かないかもしれませんが声Aさん(男らしい)と声Bさん(女らしい)は一応新キャラ。
ずっと出せなかった新キャラです
キャラ設定がどっかに行って慌ててます。
まぁ作りなおします。
それでは、ここまでお読みいただきありがとうございました。
2009/08/22
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